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◇
「耕作ー!明唯ー!起きてるかー?」
玄関で叫ぶ晴太の声で目が覚めた。
と、同時に、やってしまった、と思った。
雨戸を閉めている僕の部屋は真っ暗で、時間など分からない。
けれど、晴太が来ているということは、きっと、寝過ごしたということだろう。
慌てて飛び起きて部屋の襖を開けると、隣の部屋の襖も勢いよく開いた。
キャミソールとステテコのようなハーフパンツという、起き抜けそのままの姿の明唯と、ばっちり目が合う。
ヨレヨレのTシャツにパンツという、僕の寝起きの姿を見て、明唯も悟ったようだ。
今年も、2人揃って寝坊した。
*
一昨日の夜、泣きわめく色華さんをどうにかマンションまで送り届けた僕は、帰る途中で明唯の「ちーちゃんのところで飲んできます」というメールに気づいた。
それならば、と、千景のバーに顔を出すと、明唯はカウンターの一番奥の席でモヒートを飲んでいて、千景はいつものようにカウンターでカクテルを作っていた。
「何飲むの?」
目線だけ僕の方に寄越し、千景が問いかけた。
明唯の隣に腰掛けた僕が「ビール」と告げる前に、明唯が
「耕作は、ノンアルコールのやつでいいと思う」
と答えた。
怪訝に思って明唯の顔を見ると、明唯は唇の動きだけで
「あさって、はかまいり。
あした、しごと、かたづける」
と、電報の文面のように手短な答えを僕に告げた。
毎年、盆入りの日に墓参りに4人で出かけるのが、恒例となっている。
全員、同じ墓地に家の墓があるので、皆で参るのだ。
大切な行事だというのに、僕と明唯は、毎年、そのことを忘れ、仕事を溜め込む。
今年もすっかり忘れていた明唯は、すでに、千景にしぼられたらしい。
「あー…、フロリダがいいな。
明日は仕事を片づけないといけないから」
僕が言うと、千景は
「よかったな。文句言われる前に明唯に教えてもらえて」
といわんばかりにこちらを見てから、グラスを用意した。
レモンジュースとオレンジジュースを混ぜたフロリダは、若い頃、千景がよく作ってくれたノンアルコールのカクテルだ。
懐かしさもあり、千景の機嫌は、ほんの少し良くなったようで、
「明後日、8時に晴太が迎えにいくから、ちゃんと用意しといてよ」
と言うに留まった。
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