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入学式の一週間前。
おれたちは空の巣に帰って来た。
行きの時よりも人数を二人増やして。
「ただいま」
「こんちは」
一人はおれに続いてあいさつをするリウ。
「どうせなら一緒に行こう」と言ってついて来た。
「ここがシーちゃんのおウチ?」
おれを『シーちゃん』と呼び、あいさつもせずに辺りをキョロキョロ見るのが増えたもう一人。
金茶の髪と琥珀色の瞳を持つ虎の獣人の女の子。
名前はキトラ。
キトラと出会ったのはほんの数十分前。
門から少し離れた位置に転移したおれたちの目の前で倒れていたのがキトラだった。
空腹が原因で。
一瞬死体かと思えたほどピクリとも動かないキトラが、伏せた状態のまま盛大な腹の虫を鳴かせた。
それに少なからずおれは安堵し、リウが驚き笑う。
ラナは音の大きさに辟易していた。
多少の足しになればと、おやつの残りの板チョコを鞄から取り出すと同時に奪われる。
丁寧な包装をビリビリに破き、口の周りを茶色に汚すのもお構いなしにキトラは夢中で板チョコを頬張っていた。
数秒の出来事に唖然としながらもう大丈夫だろうと、門へ向けた足が動かない。
腰に抱きついてきたキトラの物理的な妨害によって。
なんでだろ。女の子に抱きつかれてるのに全然嬉しくない。
「チョコありがと!あたしキトラ。名前聞いてい?」
「シズ」
「シズ……シー、シーちゃん…うん。あたしシーちゃんとお友だちになりたい」
「ぅん」
「よろしく!」
キトラの勢いに押され友達になってしまった。
キトラも今年が入学らしく、ならば一緒にと、メンバーが増えた。
空の巣の前につく頃には、互いに『キィ』、『リッくん』と呼び合うほどの仲になった二人はなぜかおれを話題で盛り上がり意気投合していた。
会話に参加しないものの、話は聞いていたらしいラナが少し離れた場所でたまに頷いてもいた。
自分のことなのに疎外感…、でも何か怖くて聞けないし。
それでも、強引ともとれるキトラの物怖じしない性格に引っ張られたのか、気づけばおれも一緒になって騒いでいた。
落ち着いたのは空の巣の扉の前に来てからだった。
今だ興味深そうに部屋を見わたすキトラに、控えめながら便乗するリウ。
二人は中に入る前から「シィ(シーちゃん)が所属するギルドなら大丈夫」と何の根拠もない理由から空の巣でギルド登録をする気満々だった。
クロさんが最初にする質問に二人はどう答えるんだろう。
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