第6章 兄妹

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AD2028:4/2 17:00 アーレスシップ・艦橋 「リリーさん!」 「わかっているわ。出撃()るわ」 ヒツギの行動をモニターしていたシエラは慌ててリリーに報告する。 当のリリーは慌てるでも無く即座に出撃準備をする。 「転移モード移行。リリーさんのバイタル安定。転送行きます!」 シエラは端末を操作し、リリーの転送を行う。 「格好つけるわけじゃ無いけど、守護輝士(ガーディアン)リリー。出撃()わよ。」 リリーはそう言ってヒツギの元へ向かった。 「ヒツギ。 怪我は」 「あたしは大丈夫!でも、兄さんが!」 リリーは歯噛みした。 関係者への攻撃。十分想定しうる事態ではあったが、ここまで露骨な手段に出るとは思ってもいなかったのだ。 「シエラ!!すぐにエーテルの反応をサーチッ!!」 『してます・・・っ!校庭に異常集積反応! 具現武装と同値ですっ!!』 「——— Cool! What's crazy explosion! It must be very spectacle!! 」 その時。 メガホン越しの声が、校庭にこだました。 「誰っ!!」 リリーの抜き放ったコードダブリスが、校庭のスピーチ台に向けられる。 そこには、スーツ姿にアフロヘアの男が、メガホンを持って座っていた。 「Opposing the mother leads to catastrophe!! Isn't it? Girls?」 「何言っているのよ。あんたは。 」 『地球では複数言語が用いられていると報告にありました。日本以外の言語も、出来るだけフィードバックしてみます』 リリーは小さく頷いて、コードダブリスを構えたまま前進する。 「・・・この爆発は、貴方が?」 「Hum・・・成る程、Youが例のアークスか。つまらない事を訊くもんじゃないZE? 日本ではこういう事を『一目瞭然』というそうじゃないか」 耐えきれなくなったヒツギは、リリーを押しのけた。 「っ!じゃああんたが兄さんを!!」 涙を散らして叫んだヒツギを、男は嘲笑の目で見る。 「ヒツギ!」 「なら、こう答えておこうか・・・その通りだよヒツギガール! エンガボーイを吹き飛ばしたのはこの俺! べトール・ゼラズニィさ! Youのbrother・・・俺の目の前で! 綺麗さっぱりexplosionしてくれたZE!!」 愉悦に満ちた声で、男は高らかに告げる。 その声は、ヒツギの感情も爆発させた。 「天・・・羽々斬!!!」 蒼光が形を作るのを待たず、ヒツギは両腕を振り上げる。 その起動はハトウリンドウを描き、数十メートル先のスピーチ台を斬り裂いた。 「ハハハ! いいね、生の表情だ!!」 男の声は、ヒツギの背後に移る。 いつの間にか、男は2人を挟んで反対側に置かれた折り畳み椅子に座っていた。 「怒りと後悔に打ちひしがれる顔なんて、滅多に撮れるもんじゃないYO!」 男はまた愉悦に満ちた声を投げると、ヒツギの足元を指差し、 「しかし、足元がお留守だ。そこはちょっと君にはアツイ場所だと思うぜ、ヒツギガール?」 瞬間、リリーは動いていた。 「危ないわよ。」 咄嗟にヒツギの肩を掴み、自分の体で背後へ突き飛ばす。 「え?きゃあっ!!」 直後、2人がいた場所に置かれた爆弾が起爆した。 「爆弾!!?」 「NONONO! cutだヒツギガール! そんな簡単に挑発に乗ってしまったら、単調なbookと思われるじゃないか!!」 リリーは立ち上がりため息を吐く。 「アタシの出演料(ギャラ)は高いわよ。」 リリーはそう言って周りにいた幻想種を跡形もなく霧散させる。 「HaHa、いい顔だ! お前たちは俺のfilmを盛り上げるための待望のactorなんだから、もっともっとexciteなmoveを頼むYO!!」 「こいつ!!」 その時不意に、ヒツギは声をあげた。 「知ってるの?ヒツギ?」 「うん、東京の、映画のポスターに顔が!」 「特撮技術で有名だった、ハリウッドの映画監督!」 その名声を、ヒツギははっきりと覚えていた。 かつて「ハリウッドの鬼才」と呼ばれ、一度はその名を忘れられたものの、最近になって復権した映画監督。 「そう! 全米をexciteさせる歴代最高の映画監督! それがこの俺、べトール・ゼラズニィ! 又の名をマザー・クラスタ『木の使徒』さ!」 男・・・べトールの前に現れる、萌葱色のエンブレム。 それと同時に、べトールの姿はハギトと同じ、白の礼装に変わった。 「マザーから、来日すればexcitingなfilmが撮れると聞いてね!その日のうちにcome hereしたのさ! ハハハァッ!!」 べトールの周りに、カメラとクラッパーボードが具現する。 そのカメラが捉えているのは、兄を亡くした悲劇のヒロイン。 「だからヒツギガール!もっと俺をburningmoveを!もっと俺をcharmするactを!PREASE!!」 自ら生み出した最高のシチュエーションに、べトールは酔いしれる。 だから、見える筈もなかった。 数分前からずっと、自分を狙う銃口に。 「OUCH!?」 数発の光弾が、べトールを掠めていく。 「言いたい事はそれだけ?」 射殺すような視線のまま、リリーはファイアアームズに換装する。 そして、その瞬間。 「!?」 「警告よ。今直ぐ消えなさい。」 リリーの姿は、べトールの眼前にあった。 「チッ!」 2人の間に光球が具現する。 バックステップを取ったリリーの前で、次々と幻創種が現れる。 「全く、面白く無いactorだ! まあ良い、敵は多い方が、coolになるからNE!」 「ヒツギ。ここは任せといて」 「ううん、心配しなくても大丈夫。貴女のおかげで、今はこいつを叩きのめすのが先だって気づけたから」 太刀を構え、やや強張った肩がリリーに並ぶ。 「そうじゃないわよ。アタシがあなたまで巻き込んじゃうって言っているのよっ!」 そう言ってリリーはヒツギの肩口から幻想種を霧散させる。 「なっ!」 ベトール驚く。ヒツギの陰となっていた幻想種を事もあろうか撃ち抜いたのだから。 「あぁ。あんたには言っていなかったわね。アタシは狙撃手(スナイパー)よ。よほどの事が無い限りアタシは周りの状況瞬時に把握できる。そしてそれが何㎞だろうが制圧及び殲滅が出来る。それが近距離だろうが遠距離だろうが関係無しにね。」 そう言ってリリーはベトールに銃口を向ける。 「どうする?やるの?やらないの?今すぐ決めなさい?やらないなら見逃してあげる。」 「調子に乗っていられるのはここまでだYO!」 ベトールはメガホンを持った手を高々にあげる 「actor・・・standby・・・!」 リリーへの悪意を迸らせ、幻創種が動き出す。 「scene・・・!」 「悔いなさい。人の生命(いのち)を弄んだその悔いを」 リリーは目を瞑りそして静かに目を開ける。その目は暗く淀み見た相手を深淵に誘う様な瞳。 「ACTION!!」 ベトールは高々に声をあげ幻想種に攻撃を命じる。 リリーはその場に留まりただひたすらに銃口を向ける。 「ふぅ・・・・っ!」 幻想種がリリーに近づき攻撃を仕掛けようとした瞬間リリーはトリガーを弾き幻想種に当て霧散させる。 「ヘッドショット・・・次。ハートショット・・・次。」 リリーは次々と幻想種の弱点(ウィークポイント)に当て霧散させて行く。 —————腹が立つ。 突進してきたラットファムトをファイアアームズで撃ち抜き、リリーは正面を睨みつけた。 「GOOOOOD!! いいmoveだ!それじゃあNext sceneの撮影といこうじゃないか!!」 エーテルによる強制障壁の向こうで、クラッパーボードが打ち鳴らされる。 リリーの戦闘に干渉できないところから、べトールは上機嫌にカメラを向けていた。 らしくもなく舌打ちして、リリーは新たな敵に銃口を向ける。 リリーに飛び掛かろうとしたクロウファムトは、フォトン弾に貫かれ、容易く霧散する。 以前のハギトの軍隊に比べて明らかに、弱い。 今ここにいる幻創種は、こちらに襲いかかりはするものの、エメラルド・タブレットのように統制はされていないのだろう。 「Ha!後ろがお留守だぜ、アークス!」 さらに打ち鳴らされるクラッパーボード。 クロウファムトの群れはリリーの、背後に具現した。 「だから、どうした?」 リリーは冷静にそして冷酷に大砲(ランチャー)に取り替えディバインランチャーを放つ。 リリーの後ろに大量に湧いた幻想種は一気に霧散する。 ヒツギはリリーの戦いを眺めていてこう思った。リリーが怖いと。 助けて貰って一緒に行動するようになったが温厚で尚且つお人好しな程にヒツギの身を案じてくれていた人。 そんなリリーをヒツギは何故か怖いと思ってしまう程に。 「そろそろね。コート!」 リリーは突然自分の創世器の名を呼ぶそしてリリーは右手に風が収束し始める。 「はぁぁぁっ!ザンバース」 収束された風がリリーを中心に乱舞する。 「終わりよ・・・サテライトカノン・・・」 リリーは高出力のフォトン弾を上から幻想種に浴びせる。 「!?」 ヒツギは瞠目した。 右手に握った天羽々斬が、ほんの一瞬、形を霞ませたのだ。 『周囲エーテル急低下・・・今のPA《フォトンアーツ》で、フォトンが周囲に充満しています!!』 「ってことは!」 ヒツギの目の前で、べトールの前に張られていたエーテル障壁が搔き消える。 「あ・・・unbelievable!! 」 「後は、そうね。タイマン張ってもらうしかなさそうね! 映画監督さん」 リリーは銃剣(ガンシュラシュ)をベトールに突き付ける。 「何?逃げるの?」 「今日の撮影は此処までだ!もっとお前達に相応しいplaceとextraが用意できてから・・・本番といこうじゃないか!!」 クラッパーボードの音が響くと同時に、べトールのいた場所が爆発する。 その爆風が消えると、べトールの姿はかき消えていた。 「逃げられた」 『やはり向こうの方が、エーテルの扱いは上ですね・・・』 シエラが落胆しそうな勢いで呟く。 「仕方ないわよ。いくらフォトンと同じって言ったって向こうが一枚上手どうしてもこっちが後手に回るわ。」
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