25人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
震えが止まらない手を口元に当て、歯で指の端を思い切り噛んだ。
痛みは感じない。破れた皮膚から赤い血が流れる。
傷の周囲が、ゆっくりと白く染まっていった。
夜空を見上げて、唇をかみしめる。
深呼吸をひとつして、僕は携帯電話を取り出した。画面の電話帳に触れ、坂崎美咲にコールする。数度の呼び出し音のあと、美咲の明るい声が僕の耳に届いた。
「もしもし、美咲。あのさ、もし良かったら、今すぐ会いたいんだけど……」
恋の告白は、思ったよりもおかしな形になりそうである。
罪悪なんて感情は、余裕のある人間が感じるものだ。一年ぶりに甦る苦い思い。
目を閉じた。
二つ並んだベッドに、真っ白に染まった僕と美咲が並んで横になっている。それも、悪くない。
美咲とのファーストキスは、きっと頭が真っ白になるほど刺激的だろう。
「さよなら、唯」
取り落したタイムカプセルに声をかけ、僕は美咲との待ち合わせ場所に急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!