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「一年ぶりだね、唯」
掘り起こし土を払ったタイムカプセルは、埋めた頃と変わらぬメタリックな輝きで、月明かりを鈍く照らし返す。数度その丸みを撫で、カギを差し込みカプセルを開いた。
懐かしい、忘れかけていた唯の好きだった香水の香りが溢れ出した。
「……懐かしいな、この香り」
僕は胸いっぱいにかつての思い人の香りを吸んだ。感傷というものか。軽いめまいを感じながら、月明かりのもとカプセルの中をのぞき込む。べったりと湿り気を帯びた内壁に、一枚の便箋が三つ折りに入っていた。
唯の手紙だろうか。そっと手に取り、丁寧に紙を開いた。
『翔太、ずっとキスしたかったよ。ファーストキスだね。 唯より』
便箋の真ん中に、たったの一文のメッセージ。
「……ファーストキス?」
僕たちは結局、最後の時までガラス越しのキスしか出来なかったはずだ。それなのに、この手紙の意味するものは一体何なのか。死の病に伏し最後のときを迎えようとしていた唯は、何を思ってこれを……。
「まさか……」
タイムカプセルを手から取り落した。手紙を持つ手が震える。
濃密な香水の香り。
べっとりと湿った内壁。
ファーストキスのメッセージ。
唯が最後に見せた、あの笑顔と、あの言葉。
『……またね』
もしも……。
もしも、唯の無念の全てがこのカプセルの中に詰まっていたとするならば、それは……。
「まさか、唯は……。イージーを、僕に……」
思わず漏れ出した声が震える。
唯の最後の笑顔を思いだす。死に際に全てを受け入れたような、目に強い意思が籠った笑顔。本当に、そうか? 唯は不治の病におかされ、失意の中でただ死んでいく事を本当に良しとしたのだろうか?
いいや、そうではない。
唯は、死してなお、僕と共にいる方法を思いついたのではないか。
その答えが、密閉式のこのタイムカプセルと考えることは出来ないだろうか。
そうだとしたら、僕はすでに……。
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