1 劇団員

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書類の束に目を通しながら、トオルは長いため息をついた。 「ダメだ、胃が痛い」 もう何時間こうやって文字とにらめっこしているのかわからなかった。 読んでも読んでも積み上げられたものが減っていかない。 底なし沼に落ちてしまったような絶望感で彼は朝から口をへの字に曲げていた。 「大丈夫ですか? 少し休憩した方が良いですよ」 誰かが湯気の立つ湯呑みを、コト、と机に置いた。 助手の金森が心配してお茶を淹れてくれたのだった。 「ありがとう、心に染みるよ」 「いつになく膨大な量ですね」 「これは資料じゃなくてな」 「じゃあ何なんですか?」 「台本だよ。演劇の」 トオルはため息をつきながら台本を投げ捨てるように机に置いた。 淹れたてのお茶が五臓六腑に染み渡っていく。 再び長いため息が出た。 相変わらずの胃の痛みに、探偵業もいよいよ終わりだ、と改めて思う。 本職であるはずの探偵業よりも、金に困ってその場しのぎで始めた何でも屋の方が当たってしまった。 何でも屋として一番最初に受けた依頼が、運がいいのか悪いのか、依頼主にとって最高の結果となったようで、それが評判となり今では9対1の割合で何でも屋稼業をするはめになっている。
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