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GESU・タクティクス
日没後、この街は、突然血の巡りが良くなったかのように活気付く。
狂おしいネオンと喧騒の中で、不夜城と呼ぶに相応しい彩りが、明け方まで続く…。
☆
全く突然のことだった。
まだ穏和な匂いが消えきってないビルの谷間に、乾いた悲鳴が空気を切った。
その甲高い叫びは、まるで人の可聴域を知りつくしたかのように伸びやかで、心のささくれ立った部分を刺激した。
それは、ちょうどスクランブル交差点の信号が青になって、それまで待機していた人の群れが、一斉に道路を支配する時に起こった。
「そいつよっ!!そいつぅ!!!!」
狂気の叫び声をあげた女性は、30代ぐらいのOLで、しばらく叫んだ後、頭を押さえてうずくまり、人混みを指差した。
すると、一人の若者が、そこに向かって走りだし、「おいおいおいっ!待てよおい」と、大声で叫ぶ。
「おい!誰か、そいつを捕まえてくれ」
何度も叫んだ。
人の群れがごった返しているスクランブル交差点では、若者が指差す『そいつ』が、どこに逃げているのか、誰もが分からない様子でいる。
「なになに?」「どうかしたの?」
倒れた女性の所には、たくさんの人だかりが出来て、気を配る者や、携帯電話でどこかに電話をし始める者が見て取れた。
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