おまけ短編・縛り愛

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***** 「――いやぁ~…!ほんと、飯が美味かったよなぁ~…へへへっ…あぁ、この酒もうめぇ~」 風呂上がりと同時に運び込まれた豪勢な料理を、綺麗に平らげた一司が食事の余韻に浸るように、甘くて濃醇な、にごり酒を啜った。 その姿は酔っ払いそのもので、茶羽織を脱いだ浴衣は着崩れ肩が覗いていた。 呂律も回らず、頬は紅潮し瞳も潤んでいるが、上機嫌に笑う姿から心地好い酔いに浸っているのだろうと…神谷は微笑ましく隣に座る一司を見遣った。 つい先程、仲居によって料理の器類や、食べ尽くした舟盛りも片し下げられ、後は座卓の上に残り並ぶアルコールを夜長楽しむだけだ。 もうすぐ今日という日も終わり、この完全別宅式の個室には静かな時が流れていた――。 しかし、食中にハイペースで飲酒した所為か、一司の酔いは、いつもより早く回ってしまったようだった。 明日の朝、二日酔いに悩まさなければいいけれどと…神谷が一司の顔を心配しながら覗き込んだ時、彼は新たに日本酒をグラスに波々と注ぎ始めていた。 「へへっ…にごり酒と…ブレンド…したら、うめぇよな…」 確かに好みの割合で飲むと、風味も加わり、にごり酒の甘さと日本酒のキレ味がマッチする。 酒好きには堪らないらしい。 「……かずちゃん、ちょっと飲み過ぎよ~。大分酔ってるでしょう?」 ブレンドされた酒をグイグイと飲むその姿に、神谷は小さく忠告する様に言った。 座卓の上には瓶ビールや日本酒の空瓶が何本も置かれていた事で、流石に飲み過ぎだと改めて気付かされたからだ。
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