第1章 うつら

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「葵君、私は子供の頃、夢の中で何度も死んだんだ。夏休みの間、毎日、毎日眠る度に死んだ。その死ぬ場所が、この湖だったんだよ」 私がそう言うと、葵君が不思議そうに私を見つめた。 「湖? 何でそんな場所に僕を連れて来ようと思ったんですか?」 そう言われればそうだ。何故だろう。私は理由のない事をするのは好まない人間だ。 葵君の春休みに旅行へ誘い、此処(ここ)に来たのには明確な意味があるはずだった。 「ぶるっ。落ちたら心臓麻痺で死ぬなー」 葵君が着ているダッフルコートのフードを被り、湖の前で震えている。 3月の避暑地は真冬並の気温だった。 「落ちるなよ」 「はい。だけど、何故、何度もここで死ぬ夢を見たんでしょうね」 「この湖を初めて見た時に思ったんだよ。私が死ぬのに相応(ふさわ)しい場所だと。だからだろうか。この湖を初めて見てからひと夏、夢を見続けたんだ。私は夢の中、何時(いつ)もこの場所で、水面から伸びた沢山(たくさん)の手に引き込まれて沈んで行くんだ」 私は葵君とこの場所に心中でもしようとしに来たのか。違うだろう。 「何それ、怖い。死んだらやだよ。ファントム」 葵君が小さな手で私の手を握る。 あぁ、そうか。葵君にそんな風に言われ、私は()めて欲しかったのか。 くだらない。まるで子供の様だ。
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