俎上

1/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

俎上

 鯉に、なっていた。  なぜそれが分かったのかというと、まな板の上に乗せられていたのである。厨房だろうか。天井はよく磨かれて鏡のようになり、そこに、自分の変わり果てた姿が映し出されていたのだ。それで、分かった。  正しく、鯉であった。仰向けに寝かされている。手足――ヒレには細く、長い針が打ち込まれ、体はぴくりとも動かない。  そんなわたしを、おそらく板前であろう、白い服の男が見下ろしている。手に光るものを握り締め、覆いかぶさるようにゆっくりとそれを近づける。視界に広がる、白く、硬質な冷たい色に、わたしは目を見開いた。  ――やめてくれ。  ――やめてくれ!!  その悲鳴も、男の耳には届かない。  刃はそっとわたしの腹部に当たり、そして、ぷつり、と。  皮膚の裂ける、音が、した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!