俎上

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 目覚めると、汗がつうと額を伝っていくのが分かった。  酷い夢であった。  流れる冷汗はそのままに、頭を傾けると、ぼんやりと窓の外を眺める。  今、何時であろうか。差し込む陽気は既に太陽が高いことを意味している。早朝とは言えないが、昼を過ぎたわけでもない。そんなところであろう。  良い天気であった。  窓から見える梢。そこに鶯が二羽止まり、何やらぺちゃくちゃと囀っていた。耳に楽しいその声に、わたしは思わず唇を引き上げ、そのままゆっくりと息を吐く。 凝った体が、すうと溶けていくようであった。  頭を戻すと、白い天井が目に眩しい。それが先程の夢の中のようで、わたしは慌てて目を瞑った。目の奥に光る赤や青の光を見ながら、いったい、いつからこうしているのだろうとふと疑問に思う。  最近、眠気が酷い。  どうにもこうにも起きていられないことが増えてしまった。  以前はこうではなかったはずだ。むしろ軽い不眠の気があり、なかなか寝付けないのが常であった。それが、今はどうだ。こうして横になっていることが増えたのは、わたしの気のせいではないだろう。  仕事も忙しく、寝つきが悪いことを不満に思ったこともなければ、むしろ助かる、くらいに考えていた私であった。しかし、年々衰える体が、先に悲鳴を上げたのだろうか。ある日突然、眠りに誘われることが多くなった。  気が付くと、眠っている。前置きもなく、すとん、と落ちてしまうのである。  そして、そんな時、いつも、夢を見るのだ。  同じ夢を。  わたしは鯉になり、まな板の上にいる。  やめてくれと懇願しても、どんなに悲鳴を挙げても、その声は一向に届かない。  腹に包丁が差し込まれ、そこで、目が覚めるのだ。  無機質な、断続的な音。水滴が落ちるかのようなその硬質の響きに嫌気がさして、わたしはゆっくりと瞼を開き、再び窓の外を見やる。  瑞々しい梢は柔らかく芽吹き、鶯がその新芽を啄んでいる。食すのであろうか、それとも戯れているだけであろうか。どうか、食べるために行ってほしいものだ。例え植物であっても、遊びで啄まれたらたまったものではない。  そこまで考えて、わたしは苦笑した。  いったい、何を言っている。  戯れに、他の命を散らしたのは、他ならぬ自分ではないか。
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