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俎上
鯉に、なっていた。
なぜそれが分かったのかというと、まな板の上に乗せられていたのである。厨房だろうか。天井はよく磨かれて鏡のようになり、そこに、自分の変わり果てた姿が映し出されていたのだ。それで、分かった。
正しく、鯉であった。仰向けに寝かされている。手足――ヒレには細く、長い針が打ち込まれ、体はぴくりとも動かない。
そんなわたしを、おそらく板前であろう、白い服の男が見下ろしている。手に光るものを握り締め、覆いかぶさるようにゆっくりとそれを近づける。視界に広がる、白く、硬質な冷たい色に、わたしは目を見開いた。
――やめてくれ。
――やめてくれ!!
その悲鳴も、男の耳には届かない。
刃はそっとわたしの腹部に当たり、そして、ぷつり、と。
皮膚の裂ける、音が、した。
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