◆御札を納めに 参ります

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「土地の人間じゃなければ、馴染みのない名前でしょうねぇ。あれは『ななつごもり』と読むんですよ。村の人達は親しみをこめて『七つ様』とお呼びしていますね」  なる程。「ななつごもり様」で、「七つ様」ね。 「では、御祭神はどなたをお祀りになっておられるんですか?」  本当に勉強しておけば良かったな。こういう様式、何とか造りって言うんだろうか?  黒塗りの鳥居を抜けて真っ直ぐに伸びる参道。左側には手水、右側には絵馬を納める納所。参道の先には古めかしい建物があり、その奥に鎮座するのが拝殿だ。どうやら、拝殿の正面にある建物は祭りの時に神楽を奉納する為の舞殿らしい。 「うちの神社の御祭神は、土地に古くから伝わる神様です。このY村に人が住み始めた時に、人々の夢枕に現われ、神として祀る事で土地とそこに暮らす者達を守ると約束してくれたと言われています。ですから、一般的に記紀にお名前のある神様ではないのです」  そういう事もあるのだろうか。日本にある神社は全て、古事記や日本書紀に記載されている神様が祀られているのだとばかり思っていた。  確かに「通りゃんせ」の歌詞は、神社と深い関わりがあると読み取れる。もう少し自分で勉強してくれば良かった。  社務所らしき建物の前まで来ると、引き戸を開けて招き入れてくれた。それほど広くはないが、きちんと片付けられているので気持ちがいい。部屋の隅に設えられた文机に、硯や筆、白木の札が置いてある。 「もしかして、何かの準備中だったんじゃないんですか?」  訪ねて来たタイミングが悪かっただろうか。俺は焦って谷内に声をかけた。 「気にしないで下さい。週末に村祭りがあるんですが、もうほとんど準備は終わっているんですよ。あとは村の子供達の人数分、木の札を作って終了です」  谷内に勧められるまま、俺は差し出された座布団に腰を下ろす。
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