第3章

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 私からのプレゼントだと分かっていたミナは片付けていた物をテーブルに置き、箱を開けて中をすずに持たせた。  あのシークレットツアーで買った全体的に可愛らしいピンクで裾にウサギなどの動物のプリントを施されたワンピースだった。  しかしすずは中身を確認すると可愛いワンピースには目もくれず、ポイッと投げると、空き箱を両手で抱えて大河の所へ走っていた。  ミナのママ友の言ったことはこれか!  喜んでいる顔を想像して買った服よりも薄っぺらい箱の方に嬉しそうにされ、その様子を同情した表情で周りから見られると確かに凹む。  ミナは申し訳なさそうではあったが、他の箱を開けずに済んで安心したようだった。  すずは大河に空き箱を渡すと待ちきれないと言わんばかりに両手をバタバタと前後に揺らした。  空き箱を受け取った大河はその箱を軽く叩くと、紙特有のパコと音がした。その音を聞いて何か思い付いたようで、大河はタンバリンのように左手で箱を持ち右手で叩き始めた。  そして意味不明な音楽を歌い出した。  よく聴いてみると、それはあのデスボイスとか言う声で、SEがとっとこハム太郎で、あんぱんまんギターを持って、フェスの名前が著作権侵害で、実はメンバーが全員イケメンで、でもファンが“イケメンですね”って言うと“営業妨害はやめて下さい”と文句を言って(イケメンを否定しないとこはさすが)、紅一点はドラマーでしかも華奢で可愛い19歳で、みんなでサイリウムを持って、オープニングでラジオ体操をして、バンTはぬののふくで、そしてシャツはズボンにインして垂直跳びをするオタクなバンドの歌だった。(大河の説明は聞き流してつもりだったのに覚えてた)  それにしても2歳児相手に童謡ではなく、このハードな歌はありなのか?  しかも策さんとは会った事があるかもしれないけど初対面のご両親の家だというのにも関わらずこの歌を選曲したとは、変態過ぎて私の理解の範疇を超えていた。
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