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確かに不躾だったかも。大きすぎる額は不審に思うかもしれないなと、失敗を認めた。
「ご、ごめん、でも、持ち合わせがそれしか無かったからで、気にしないで受け取ってくれ」
すると、彼女は目を丸くして言った。
「驚いた、本気で言ってるの?私、お金が欲しくてライブしてる訳じゃないわ。確かに、多少のお金は頂いているけど、正当な評価として貰いたいの。こんな金額、私に何か下心があるとしか思えないわ」
「そんなの無いよっ」
あ…。
僕は苛立ちを覚え、ついキツい口調で言ってしまった。
彼女は口を尖らせ、顔を強ばらせた。
僕は君の歌声に感謝したかっただけで、怒らす気など更々無かったのに。
「とにかく、これは返す」
完全に不審者扱いされてしまった。
僕は、差し出された一万円札を受け取った。
「ちょ、ちょっと待っててくれ」
「なに?」
「両替してくる」
千円なら、いつもと同じく受け取ってくれるだろうと、近くにコンビニでも無いかと辺りを見回す。
両替を頼める店は無く、駅まで戻るしかないと思った時。
「ちょっと、本気でチップだったの。その一万円」
「え、ああ、別に裕福でも何でも無いけど、あげたかったんだよ、千円でも一万円でも」
彼女はまだ口を尖らせたままだった。
「それに、いつも来てるんだ、その、君の歌を聴きに」
失敗したな。
これじゃあ、もう次からは聴きに来られないかも。
「知ってる」
え?
「君、変わった人だね、別に百円玉でも十円玉でも良いじゃない」
彼女の尖った口が解ける。
「それじゃあ、お賽銭だよ。僕は歌の代金として、ちゃんと払いたい」
口元が緩み、優しく微笑んだ。
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