第1章

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うだるような暑さだった。 野島貴文は額の汗を拭った。この暑さの原因は頭上に浮かぶ太陽だけのせいではない。彼の前後左右に存在する人々の群れが、この温度上昇の手助けをしていることは間違いなかった。 「まだかなあ。ちょっと足が痛くなってきた」貴文の隣にいる小澤千佳が言った。 「もうそろそろだと思う」 貴文は腕時計を見た。時刻は間もなく午前十時になろうとしていた。 彼らは携帯ショップの前から続く列に並んでいた。朝七時くらいから並んでいたため、もう3時間は同じ場所にいることになる。 二人を含め、列に並んでいる人はP&V社という携帯会社が出す今日発売の新商品が目当てだった。 「早く行かないと売り切れちゃうよ」と千佳に言われ、それは無いだろうと貴文は思っていたが、二人が店の前に来た時点ですでに行列が出来ていた。余程人気なのだろう、どんどん人が増えていった。列は蛇のようにくねくねと曲がっており、最後尾は貴文の場所からは見えなかった。
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