出発

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 汗で体にまとわりついてくるシーツと変な匂いが鬱陶しくて目が覚めた。  スマホに手を伸ばし6月22日水曜日と確認する。しかもまだ朝の五時じゃん。仕事には行かなくていい。先週辞めたとこだから。  起き上がると赤く染まったブラウスに目が留まった。よく見るとブラジャーもシーツも赤い。こみ上げるワインと吐瀉物の匂い。昨日の記憶を辿ってみる。    そうだ、久々に私服で出かけたんだっけ。ウエストがきつくて長い間履けなかったショートパンツが履けたから、去年の春に買ったベージュのブラウスを引っ張り出して久々に美容院に行った。黒くて長い髪をバッサリ切ってボブにして、明るい茶色に染めてもらった。ついでにメイクもしてもらった。クマが消えるまで目の下にいろいろ塗られピンクのチークで華やかになった。明るい色で彩られた鏡の中の私は性格まで明るくなりそうだった。    そのあとはカフェでランチをした。日替わりパスタのジェノベーゼ。緑色はほうれん草ではなくバジルと初めて知った。バジルのいい香りとにんにくのうまみが美味。食後はゆっくりコーヒーをすする。窓の外をせわしなく歩くサラリーマンは一体何を食べたのだろう。午後一時を回った店内は女性客ばかりである。いわゆるママ友ランチだろうか。今日は私ものんびり食事を楽しめた。 こんなゆっくりとした昼下がりは何年振りだろう。時間に追われることなくぼんやりすると、なんだか体がとろけていきそうだ。
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