107人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「うん、休みだよ」
「良かった」
ホッと笑う彰兄に、俺は怪訝な顔を向けた。
「実はね、さっきは言わなかったんだけど、僕の手料理を食べた人は、もれなくトイレと仲良くなるんだよ」
「・・・・」
「体が拒絶反応を起こすんだろうね。多分・・・明日の昼頃までは、出られないんじゃないかな」
拒絶反応・・・。はにかむ笑顔が可愛いと思った。喋ってる内容はともかくとして。
「・・・トイレと仲良く?」
「うん。頑張ってね」
何を頑張ればいいのかイマイチよく分からないまま、俺は頷いた。
食べてしまったものは仕方ない。トイレの場所は偶然にもさっき確認したし、迷子になることもないだろう。
俺も男だ。覚悟を決める。若干、彰兄に対するイメージが壊れたような気もするけど、愛ゆえの暴走なのだとしたら、それは全部俺のせいなのだろうから。甘んじて受け止めよう。
少しだけ彰兄の気持ちが怖いような気もするけど、何でも完璧にこなす彰兄の人間臭さが嬉しいのも事実だから。
俺はそっと彰兄の肩にもたれかかった。
「彰兄・・・もうちょっと、待っててね」
俺の気持ちがはっきりするまで。きっと、彰兄のこと好きになるから。
「いつまででも待ってるよ」
優しく穏やかな時間が流れた。時折、暖炉の中で薪が爆ぜる音が響く。静寂に包まれた中、それは突然やってきた。
『ぐるるるる』大きな音が辺りに鳴り響いた。うっと呻く俺を、彰兄が曖昧に笑う。
ああ、くそ。死ぬ程腹が痛え。
腹の中は今、とんでもないことになっている。飲み込んだのは怪獣か?愉しげにタップを踏んで踊ってやがる。
俺は腹を押さえ、前屈みになりながら、トイレへと駆け込んだ。
終
最初のコメントを投稿しよう!