最悪と最愛

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「よう」 定時に仕事を終えた俺は、冷たい風に身を震わせながら家路へと急いでいた。一月も半ばの今日は、冷たい風もビュービュー吹いて、所謂身を切るような寒さだった。 声を掛けてきた男を無視したまま、俺は傍を通り過ぎた。 「無視するなよ。寂しいじゃねぇか」 ズンズンと歩みを早くする俺の後ろを付いて来ながら、奴はのんびりとした声音で告げた。 「電話は着拒。家は引き払う・・・本当にお前は冷たいよな」 当然だろとは、心の中で呟く。 「お前に迷惑を掛けるから、本当はこんなとこにまで来たくはなかったんだぞ?」 だったら来るな。 「でも、お前に会う為には背に腹はかえられないもんな」 白々と自分を正当化するこの男にムカついた。いや、遠の昔にムカついてはいたんだが、更にムカついた。 俺は立ち止まり、キッと奴を睨み付けた。 「鬱陶しいって何度言えば分かるんだ。会社に電話はする。こうやって待ち伏せする。いい加減にしろ。お前はストーカーかよ」 「おっ、やっと口を聞いたな」 怒る俺を歯牙にも掛けず、武蔵は嬉しそうに笑った。
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