瓦礫の城

3/5
214人が本棚に入れています
本棚に追加
/1170ページ
しかし、幾ら頭を捻ってもそれ以上の情報が出てこない。 自分が置かれた状況が分からない挙げ句、何者かも知らないとは。 記憶喪失どころの問題じゃない。 まるでそう、話が出来る程度の男が、たった今生み出されたような。 そんな感覚だ。 『目覚め、ましたね。』 そんな事を漠然と思い、動かない私の頭の中に、突如響いた、か細い高い声。 ───女の声? 『あぁ、私の声が聞こえているようですね。』 思わず、周りを見渡していた私の頭の中に、その声は安堵した様子で響いてくる。 「何者だ?ここは何処だ?私は何なんだ?」 そして、捲し立てるようにその声に問い掛けていた。 薄暗いその部屋に私以外誰もいないのは分かっている、それでも、その声の主を探して見渡していた。 『記憶が、無いのですか?』 私の問いにそう聞き返してきた声。 「聞いているのはこっちだ。記憶が無いのかなんて、私は知らない!」 そう言うと、暫しの沈黙の後、再び声が頭に響く。 ───その様子では、完全に失われてしまったようですね。 ───先ずはその部屋を出てください。私はそこにいます。 ───質問にはそこで答えましょう。 頭から声が消えたと思った次の瞬間、私の目の前の壁に光の線が走り、ちょうど人一人が通れるほどの大きさの四角を描いた。 直後に光に飲まれるようにして壁が消え、眩い光が差し込み目が眩む。 顔を隠すように両腕を構え、数秒して眩い光が落ち着いたところで腕の隙間から覗くと、開いた壁の先にも石造りの部屋が見える。 どうすべきか一瞬戸惑ったが、進むしか無い。 私は恐る恐る、壁の先へ足を踏み入れた。
/1170ページ

最初のコメントを投稿しよう!