運命の恋はひとつだけ

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新たな恋と失恋を同時に自覚してから十日が過ぎた。 私の一方的な抗議を無視されたあの夜の一幕は、とりあえず忘れようと努めた。 彼の前で涙を見せた訳でも決定的に取り乱した訳でもなく、まだ元に戻れると思いたい。 せっかく会えるのだから、普段通りの態度で彼と顔を合わせる心の準備を整え、私はセミナーの日を迎えていた。 「ナツ、今夜は食べ放題じゃなかったっけ」 「そうだよ」 普段、貧乏性の私はビュッフェディナーを予定している日は昼食を少なめにする。 そんな私の浅ましい行動パターンをよく知る茉由子が、今日は私がいつもの定食を選んだことに目ざとく気づいた。 彼の前であまりガツガツするまいという女心のつもりだけど、考えてみればいつも私は彼の部屋で出される夕飯に嬉々としてむしゃぶりついてきたので、今さらな気もする。 だって、彼が取り寄せるものは、いつもとびきり美味しいのだ。 「あ、わかった。東条主任と一緒だからでしょ」 「……まあね」 茉由子には本物の好きな人を打ち明けていない。 失恋予定だから、もうこのまま秘密にしておこうと思う。
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