彼の“例外”

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「一般論だけど、男は意固地でグズで、やせ我慢する生き物だよ。仕事ができる男は尚更ね。もう担当でなくなったセミナー会場に、なぜ彼は来たんだろうね」 主任は脇の椅子に置いてあった私のバッグを取り、テーブル越しに差し出した。 行っておいで、と言うように。 「僕はもう少し飲んで帰るよ」 それから私のコートを広げて立ち上がりながら笑って言った。 「男はやせ我慢の生き物だからね」 コートを着てバッグを抱きかかえると、私は深々と頭を下げた。 「主任。頼りない部下ですが、これからもよろしくお願いします」 「江藤さん」 背中を向けて駆け出そうとした私の足を、主任が止めた。 「誕生日おめでとう」 主任からのプレゼントに、私は泣き顔を笑顔に変えて、心を込めてもう一度お辞儀をした。
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