第1話

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 信吾と大輔は受けとって、ひと口かじった。飛び切りスパイスが効いたローストチキンだ。ハーバード瑞樹は日系ブラジル人で、身長は193センチ。愛知県の100メートル高校記録をもっている。3年前の10秒07はいまだに破られていない。スポーツ推薦で大学にも誘われたのだが、今では母が開く店の手伝いをしている。勉強が嫌いなのだそうだ。万松寺通りにあるローストチキンの店の経営は上々だが、その他大勢の台湾系唐揚げ店と激烈な競争を繰り広げている。ブラジル対台湾の熱きチキン戦争は大須の街の名物のひとつだ。 「せーなちゃーん」  おたくたちから野太い声が波のようにふれあい広場を洗った。綾火とは対照的に小柄な伊東せなが、こちらに笑顔で手を振っている。信吾はいった。 「やっぱり女は愛嬌だよな」 せなは大須オーガニックドールズのリーダーで、名古屋大学理学部物理学科に通っている。父親を早く亡くしている苦学生で、アイドルをしていないときはふれあい広場に面したメイドカフェでアルバイトをしていた。 ハバが手を口にあてて叫んだ。 「せーなちゃーん」  五人は大須の小学校の伝説のクラス4年3組の同級生で、いまだにいつもつるんでいた。ハバは算数がまったくできない学習障害児だったので、アインシュタインの重力方程式を中学2年生で理解したせなを無条件で尊敬している。
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