第1話

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 台座には「鳩に餌をやらないでください」というポスターがしつこいほど貼られていた。その上で巨大な白いまねき猫が左の前足をあげている。朱塗りの柱と梁に支えられた大屋根は透明で、四角いタイル張りの広場に焼けるような秋の陽が注いでいた。 「O・S・U…O・S・U…O・R・G・A・N・I・C…D・O・L・L・S」  大須ふれあい広場には200人近くのおたくが集まり、全力のおた芸で汗を飛ばしながら名古屋のロコドルの名を絶叫していた。大須オーガニックドールズは半年前に彗星のようにあらわれたローカルアイドルグループだった。週末には必ずこの広場でミニコンサートを開いている。 「シンゴ、店のほうはいいのかよ。土曜の夕方は書きいれどきだろ」  坪井信吾の家は東仁王門通りにある古着屋だった。大須に住む者ならしらないやつはいないだろう。祖父の坪井礼之介は大須商店街の会長をもう四半世紀も務めるこの街の顔役のひとりである。自分の店で売っている古着のジーンズとアメコミTシャツ着た信吾が、となりの友人にいった。 「ダイスケこそ栄に帰って、おやじさんの金もうけの手伝いでもしてろよ。お坊ちゃまには大須みたいな下品な街は似あわないだろ」
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