煩悩の腐男子先生

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「はぁっ?! 当たり前だ! なんで俺があいつらと? あいつらはバカでも可愛い教え子だぞ?!」  佐和は生徒同士とか、桂と海枝のイケナイ関係を妄想することはあっても、自分が生徒をどうこうしようなどと思ったことは、一度もない。  というより、自分を妄想のネタにするという頭が、一切なかったのだ。  だから、桂の問いには間髪入れずに答えた。  すると、桂の目がさらに優しくなった。 (な、なんだ……?)  佐和は、自分の心臓の明らかな異常を感じた。  突然早くなった鼓動に――戸惑う。 「だったら、いいじゃないですか。頭の中で、あいつとあいつが付き合ってるとか想像するぐらい、共学校の先生だったらしてるんじゃないですか? うちが男子校だから、話がややこしくなるだけで」 「そ、そんな……」  無茶な言い訳があるものか、と思いつつもどこか心が軽くなる。 「大野先生に振られたのが当然だったか、俺にはわかりませんが……見た目だけでいえば、佐和先生もそこそこイイ男じゃないですか? 見事な中肉中背ですが、鼻筋の通った顔はまあまあ整ってるし、肌もきれいだ」 (ほ、褒めてるのか……?)  わからないが、気分は悪くなかった。 「若いのにやる気がないのはどうかと思いますが、仕事ぶりは真面目だし、生徒との関係も良好。だから俺は、佐和先生が言うほど、佐和先生を最低な教師だとも思いませんけど?」  桂らしい嫌味な口調と、皮肉な笑みが戻った。  しかし佐和は、いつものように腹が立たなかった。  ズンと伸しかかった心の重石が、どけられたように感じた。 (俺は……教師を続けてもいいのか?)  まだ少し不安でソロソロと視線を上げると、いつもの皮肉な笑みを浮かべる桂と目が合って――佐和の頬がポッと赤くなった。  皮肉な笑顔はいつもの桂なのに、その目はやはりいつもより優しい――。 (気持ち悪いだろ、俺。なんで顔を赤らめてんだ?)  三十路男の赤らんだ顔など、自分でも見たくない。佐和は両手で頬を抑えた。  それを見た桂の、シルバーフレームの眼鏡がキラリと光る。 「それにしても……佐和先生に、こんな秘密の趣味があったなんて」  桂は佐和が放り出したBL小説を拾い、きれいな顔の横に掲げた。 「み、深山先生……?」  妙に嬉しそうな桂の笑顔が――不気味だ。
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