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少年の暮らす村は山と森に囲まれた、人口が約百人ちょっとという小さな村だった。
そのために村人達とは親戚のように親しい間柄である。
少年は一人一人の顔を思い描くも、自分の記憶に当てはまる声の主はいなかった。
そっと覗くと焚き火の暖かな光が冷えた頬を撫でる。
炎に照らし出された顔は二つ。
冬も近いというのに、薄手の旅装束に身を包んでいる。
一人は焚き火のすぐ近くに座っていた。
闇より深い漆黒の、少し伸びた前髪の隙間から紫水晶の瞳が炎を見つめている。
中性的な顔立ちに性別がどちらなのかと少年は迷った。
しかし、胸の無いすらりとした長身に男だと咄嗟に判断した。
判断の材料として胸に目を向けるのはごく自然だろう。幼くとも少年は男である。
二人目は彼から少し離れた木にもたれて座っている。
こちらは胸を見ずとも男だとすぐに判断することができた。
端整な顔立ちで、やや顎はとがっている。細身ではあるが引き締まった体つきをしていた。
ライオンのたてがみのような、それでいて銀色の髪が印象的だ。
どちらも村の者ではない。
少年はためらった。
村の者なら大喜びで飛びつくのだが、相手はどこの誰とも知れぬ男達。
それに、祖母が昔話にと聞かせてくれた山賊ならば大変なことである。
幼児はさらって闇の市場で売られてしまうのだとか。
知らない人にはついていっては駄目だと、祖母や母から何度も繰り返し聞かされて育ってきた。
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