またね

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またね

「またね、又来月」  寂しげな表情の息子の頭を撫でた。男は、自分でも寂しい気持ちでいっぱいだった。だが、父としてそんな気持ちを子供に見せられない。できる限りの笑顔で息子を見送った。それが、毎月の面会日の別れの場面だ。  離婚してから三年、息子に会える日が男の楽しみだった。  しかし、離婚という衝撃と子供に会えない辛さが、違う方向に男を走らせてしまった。  離婚1年で子持ちと再婚。前と同じ生活に戻る気がした。しかし、そんな歪んだ気持ちで生活が上手くいく訳もなく、今では、再婚相手の顔も性格もどうでもよくなっていった。ただ、今の家族に嫌われないように、偽物の笑顔で現状維持の生活を過ごすだけの日々。男の唯一の心の支えが、一ヶ月に一度会える息子だった。  そして辛い一ヶ月を乗り越え、今日がその日。一時の安らぎを子供との時間で満たす。  息子と昼食を取りながら 「この次は、どこに行きたい?」  息子は、もじもじと俯きながら 「えぇっと、お父さんの家」  男は戸惑った。 子供は、今の私生活を知らない。息子を連れてくと今の嫁に言える訳がない。   男は咄嗟に、 「じいちゃんに会いに行くか?」 と、焦りを誤魔化すように言った。 『いつか又、息子と一緒に暮らせる日が来るのだろうか?』そう思うと胸が苦しくなる。男は、胸にこみ上げるものを堪えるしかなかった。  楽しい一日は、すぐに終わってしまう。別れの時間が来た。子供と手を繋ぎながら待ち合わせの場所へ向かった。  いつもの場所。既に相手は到着していた。迎えに来た元妻との、つかの間の再会の時間でもあった。しかし、そこに会話は無い。男は、繋いだ手を放し、中腰で息子の顔を覗く。 「またな、又来月」  軽く子供の頭を撫でた。 「お父さん、またね」  別れの言葉はいつも通り。悲しく、そして次のつなぎの為の 「またね」  その言葉を残し、子供は、母の方へと歩みを進めた。
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