わたしは人魚

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『それにね、人魚の肉を食べると不老不死になる、なんて嘘っぱちのうわさが広まっている国もあって、そういう国の人間につかまったら……ああ、おそろしくて口にも出せないわ』 『ええ……っ、た、食べる? わたしたちを? こわい、こわいよ、おかあさん』 『そうよ、怖いのよ、人間は。だから、お外に出るときは気をつけなきゃだめよ』 『はい、おかあさん』 その話を思い出して、ぞくり、と背筋が寒くなった。 見世物小屋って、よく分からないけど、とにかくとっても恐ろしいところなんだって聞いたことがある。 檻の中に閉じ込められて、人間たちにじろじろと観察されつづけるって。 わたしたち人魚は、水がないからといって普通の魚みたいに死ぬというわけではないけれど、 肌が湿っていないとすぐに疲れてしまって、ひどく体調が悪くなる。 それなのに、乾いた檻の中で好奇の目に晒されるなんて………考えただけでも、震えが止まらないくらいに恐ろしかった。 それに、もしもこの地曳き網の持ち主が、『人魚の肉は不老不死の薬』なんていう根も葉もないまったくの迷信を信じるような国の人にだったら………。 あぁ、わたしはこれからどうなるの? 生きたまま、渇ききった檻の中に囚われて、そのまま売られてしまうの? そして見世物小屋で死ぬまで見世物にされるの? それとも………切り刻まれて、殺されて、お刺身みたいに皿に並べられて、食べられてしまうの?
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