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「急ぎましょう。知られる前に、塀の外に出なくては」
悪戯っぽく笑い、誠一郎さまは私の手を引いて走り出す。
知らず、私の唇には笑みが滲んでいた。
「………誠一郎さま………」
「はい」
「ありがとうございます」
「はい?」
「私をあの場所から救いだしてくれて………」
あの籠は、苦しかった。
誰もがうっとりするほど華やかで綺羅びやかだけれど、
狭くて暗くて息苦しい、美しい牢獄。
脱け出したかった。
もうずっと昔から、いつもいつも外の世界へ出ていくことを思っていた。
でも、そんなことは許されないと、私にはこの人生しかないのだと、自分に言い聞かせてきた。
美しい鳥籠の中に閉じこもって、目を瞑って耳を塞いで、なにも考えないようにしてきた。
せめてもの慰めに、自分はこの鳥籠の中では最も高価な鳥なのだと、誰にでも買える鳥ではないのだと、ちっぽけな誇りにすがることで自分を保っていた。
卑しくて浅はかな日々を送っていた。それで良いのだと、仕方がないのだと思っていた。
それなのに……この美しい月の夜に、私のもとへ、救いの主が来てくれた。
そうして私の心を揺るがし、我に返らせ、決意を固めさせ、私をさらってくれたのだ。
「……誠一郎さま。私はこれから、貴方に尽くします。貴方のために生きていきます」
胸をいっぱいにする感謝の気持ちを伝えたくて、でも言葉が見つからなくて、私はそう囁いた。
すると誠一郎さまが振り向いて、私をじっと見つめながら「いいえ」と首を小さく横に振った。
「あなたは、あなたのために生きていくのです」
はっと息をのんだ。それから、胸が熱くなった。
「……はい」
頷いて、その大きくて温かな手を強く握り返す。
濡れたような月の光が、私たちを優しく包みこんでいた。
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