失恋トランキーロ

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失恋トランキーロ

綺麗なお姉さん、そういうタイプの女性。 「いらっしゃいませ」 カウンターの向こうから、何にいたしましょう、と注文取りをしてくれるが、声のトーンは低い。 「あっ、えぇ~っとぉ、じゃぁ、コレください」 一番人気、とPOPが貼られてあるラベンダーを選んだ。 ハイ、と応えた綺麗なお姉さんは背中越しに、 「むらさき、一つ」 と、カウンターの奥にいるもう一人に投げかけた。 (酒焼け?) と、思わせるシャガレた声。 綺麗なお姉さんは、次に並んでいた客の対応に廻って、もう、僕の前にはいない。代わりに、僕の前には、カウンターの奥にいたもう一人がいる。 「お待たせいたしました」 マスクをしている。ノンメイクである。髪は肩まで。色は少し茶っぽい。お店の制服なのだろう、綺麗なお姉さんと同じく、白いポロシャツ。でも、綺麗なお姉さんと対極に位置している感じで、まるで色気めいたモノが感じられない。 (つまんねぇの) と、思い、むらさき色のグルグルを受け取った。 理想イメージは、 (綺麗なお姉さんが見た目とのギャップとキャピキャピしたアクションを武器に、男心を鷲掴み、にしてくれる。アニメ声で、「こちらのォ~、ソフトクリームはァ~、地元・富良野のォ~、生ミルクとォ~、ラベンダァ~をォ~、使用してまァ~す」、と超ブリっ子ムーブメントで、アヒル唇を作って見せたり、ウルウル瞳の上目遣いで、肩をすくめたり、首を傾げたり、セーフティーゾーンを超える程に顔を寄せてきたり、思わせ振りタッチで御釣を渡す際に必要以上に触れて来たりする) 旅物語でありがちな“恋の予感”に期待する。そして、理想イメージは、膨らみを続ける。 (「どこから来たんですか?」なんて聞いてくる。「東京です」、「エェ~、凄っごぉ~い!!! 東京ォ~、……、憧れちゃうなァ~」、東京の話を聞かせてください、と。「お店のお仕事が夕方5時に終わるんでェ~、その後、お時間、空いてますかァ?」) 『何事も事前に語られなかったことが、現実には前面に立ちはだかるのが旅の本質であり、生の要諦である』 巨匠の言葉を信じていたから、 (ここで、ついに来たかァ~っ!) と、心の中でガッツポーズをした。
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