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「何だ……?」
俺はその紙を拾い上げる。
紙はメッセージカードのようで、表にはハッピーバレンタインと書かれていた。
「もしかして、奈津美か?」
残された奈津美の言葉と想いを感じたくて、俺はすぐさまメッセージカードを開く。
『ハッピーバレンタイン。あなたの好きなものをチョコレートに入れて、私の気持ちを贈ります。浮気したことは許してあげるわ。ずっと一緒にいましょうね。あなたの最愛。可奈子より』
最後の名前を見て、俺は頭の中が真っ白になる。
その白い景色の中に、名前がじわりと黒くにじみ始め、それに気が付いた俺は、追い出すように名前を絞り出した。
「可奈子……!」
それは、逃げ切れたと思っていたストーカーの名前だった。
思い出したくなかったその名前に、過去の恐怖がよみがえる。
足元から忍び寄ってきた恐怖は、蛇のように身体をはい回り始め、絡めとるように身体を拘束し、俺を動けなくさせた。
息さえもうまく吸うことが出来ず、俺は喘ぐように短い呼吸を繰り返す。
そして、どうにか心を落ち着けようとしたその時、ガチャリと玄関が開く絶望の音がした。
end
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