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休日の駅はあまりにも多くの人がいる。
彼女が安心して泣ける場所もない。
首を垂れるように持たれた僕は、彼女の歩みに合わせてブラブラと頭を振る。
揺れる視界に目が回りそうだ。
彼女を見上げることもできない。
ただ過ぎ去る人々の足。
誰かが運んで雪が溶けたものだろうと思われる汚れた水。
そんなものを目で追いながら、力なく握られた手から伝わる彼女の口惜しさだけを感じていた。
この駅に来たときとは反対の特急電車に乗り込む。
片道2時間。
僕が買われたのが午前10時の開店直後。
午後4時をまわった今、2月の太陽はもうその力も失って薄暗く、蛍光灯の無機質な明かりは決して彼女を温かく包んだりはしない。
待ち合わせの時間に3時間も遅れてきた男を、彼女はじっと僕を膝の上に置いたまま黙って待っていた。
待つ間は、何度も何度も携帯電話を気にしていた。
男から短いメールが来ると、それだけで少し嬉しそうにした彼女。
おそらく別れを覚悟していたはずなのに、会えるだけで嬉しいと言わんばかりの様子に、僕さえ微かな希望を持つようになっていた。
それなのに……。
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