股寝

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「大学行っても、(こと)続けますよね?」 「箏曲(そうきょく)部があればな」 「またまた。そんなこと言って、箏はちゃんと持って行くんスね」  久保坂が指をさした先の壁には、一つの箏が立てかけられていた。運搬用のカバーで覆われているそれは、彼の身長をも超えるため異彩を放っている。 「別に、あれがないと落ち着かないだけだし……」 「でも辞めないで下さいね。俺、先輩が弾く箏、好きですから」  その言葉は、久保坂に告白された時のものと同じだった。  一昨年(おととし)、五人しかいなかった箏曲部は、うち三人が三年生ということもあって新入部員を喉から手が出るほど欲していた。そこで新入生歓迎会の部活紹介では、あえてソロパートがある曲を選んだ。唯一小学生の頃から箏曲をやっていた律斗が独奏をすることで、強いインパクトを与えるために。  計画は見事成功し、箏曲部には六人もの新入部員が入った。その内たった一人だけいた男子が、久保坂という訳だ。  入部動機は『先輩の箏が綺麗だったから』。半年後、告白された時の台詞は『先輩の弾く箏が好きだけど、それ以上に先輩のことが好きです』。 (なんて、よく考えたら経験差がありすぎて俺に追いつける訳無いのに、よくここまでやってきたよな)
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