プロローグ

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 雨が降ってた。  いつのまにか結構降ってて。  傘は持ってなかったから、  あっという間にくつの中は水浸し。 『ちゃぷん、ちゃぷん』  だけど別に、  そんなのどうでもいい。 「……授業参観? うん、大丈夫、今回は行けるわ」 「ほんとうっ!? お母さん、私、勉強しておくからっ。先生の質問に答えられるように、すごくすごく勉強しておくから! 私、待ってるから!!!」 『ちゃぷん、ちゃぷん』  朝はあんなにキラキラ太陽だった空は、  今はうそみたいな真っ黒。  黒より黒い空。 「……お天気お姉さんの大うそつき。降水かくりつゼロって言った!」  授業参観が終わって、  みんなは家族の車で送られて帰っていく。  私は1人で道路を歩いていた。 「……べつに。期待なんかしてなかった。いつものことだもん」  とぼとぼ。  とぼとぼ。  雨の中。 「……いっぱい勉強したけど、1回も質問されなかったし」 『ちゃぷん、ちゃぷん』  いつものこと。  今日もそうだっただけ。  こんなのなれてる。  もうなれた。  授業参観にお母さんが来てくれたことなんて、  今まで一度もない。 『ちゃぷん、ちゃぷん』  私の頬がぬれてるのは、  雨のせい。  周りがぼんやりゆがんで見えるのも、  雨のせい。 「……負けないもん」  とぼとぼ、とぼとぼ。  雨の中。  ポロポロ、ポロポロ。  雨の中。  降り続ける雨が、  私の全身をさらに包んでいく。  水埼沙耶(みさきさや)、8才の秋。  そして季節が変わり。  橘駿(たちばなしゅん)と出会うまで、  あと少し……。
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