またね

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    ◆  漫然と流れる車をあたしは眺めてる。最初は義務感みたいな思いがあった。でも、長く続けている内に当初の思いは薄れて、あたしはただ惰性で続けてる。だから、きっとあたしはもう何もしてないんだと思う。  行き交う車。その量はいつもと変わらない。その速さもいつもと変わらない。太い道路だから、交通量は多くて、速度には遠慮がない。そんなに急いでもいいことないよ、なんて言っても当然誰も聞いてないし、車の勢いは変わらない。カラフルな車が行き交っているのに、どうして世界はこんなに色褪せているんだろう。  変わらない、変化の無い日々に埋没してく。あたしが何をしたって何も変わらない。それが不満で、とても不安だった。 「また、見てる?」  そんな車の隙間を縫うように、視線が飛んできた。視線には過敏になっていると思う。むしろ、この視線があるから過敏になったんじゃ無いかと思うくらい。だから、すぐに気づく。あたしと同じ高校の制服を着た男の子。夏だから袖を捲ったワイシャツにネクタイを緩く絞めただけ。背は高め。背筋がピンと伸びていて、武道の嗜みでもあるのかな、なんて考える。そう思ってみれば、遠目にわかるぱっちりした瞳にもなんだか眼力が宿って見えた。あたしのネクタイは青。彼のは緑。学年で使い分けられるネクタイの色。去年の三年生が緑だったから、彼は今年の新入生だ。  ツンツンと跳ねた髪はセットの手を抜いた結果にしか見えない。思うままにあっちにこっちに飛び出して主張していて、毛先に奔放なワンコでもくっついているのかと思うくらいだ。自分の髪にそっと触れてみる。まとまりのあるあたしの髪は、すっと指を飲み込んで引っかからない。あたしと彼の髪の長さはほとんど変わらない。女子にとっては短すぎるくらいで、男子にとっては少し長い。それなのに、こんなにも違うんだなと彼の頭を見てぼんやりと考える。  いつしか車そっちのけで彼を観察していると、歩行者用の信号が青に変わる。ダムが放水するみたいに、勢いよく人が流れ出す。彼は遅れず流れに乗って、こちらへと歩いてくる。いつものように彼の視線を気にしながら、彼を見送るのに時間はいらない。四車線なんて、あっという間。  いつも通り。それが今はすごく怖い。いつも通りは、嫌だな。  だから、あたしは思いっきり息を吸う。 「いつも見てるよね」  少し上ずった声を私は解き放つ。
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