手紙と預け物

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□□□□□ 桜の木を見上げていると、突然後ろから声を掛けられた。 「ねぇ、何してるの?」 振り向くと立っていたのは1人の女子生徒。 制服が新しいから、おそらく同じ新入生だろう。 チラリと桜を見てまた女子生徒に視線を移して答える。 「桜を見てた」 「桜? そんなの向こうにもいっぱい咲いてるけど…」 「いや。なんか、ここの桜が懐かしいような気がして…」 ただ校舎をブラブラしていただけだったのに、ここに近づいた時、ここに桜があると思った。 あることなんか知らないのに、初めてこの場所に来たのに、初めて見るはずなのに、見たことないはずなのに、この桜を見た瞬間胸が打たれたような衝撃を受けた。懐かしい気持ちが込み上げた。ずっと前から知っている気がした。 同時にとても泣きたい気持ちになる。 変でおかしいと思うのに、それをなぜか不思議に思わない自分がいる。変な夢を夢と自覚しながらも何の抵抗もなく受け入れてる感じ。 「…ふーん」 他には何も言うことなく、その女子生徒は隣に並んだ。 彼女の横顔を見た途端、誰かと重なって見えた。 名前を呼びそうになって、でも結局は出てこず何を言おうとしたのかさえ分からなくなった。 「……うん。分かる気がする」 「え?」 彼女がポツリと呟く。 「私もここの桜、懐かしいような気がするから」 「─────……ねぇ」 「うん?」 彼女が桜から自分に視線を移し、体ごとこちらを向いた。 「…君の名前は?」 「私の名前?」 一瞬、きょとんとした表情を見せたが、すぐに笑った。 「『天海(あまみ)光桜(みお)』。 光る桜で、光桜だよ」 「光桜……」 教えてもらった名前を口先で繰り返す。 なぜか胸が熱くなって、キュウ…と縮んで苦しくなって、それから満たされるような相互する気持ちが相まる。 今度は彼女が聞き返してきた。 「君の名前は?」 「……俺は、『千裕(ちひろ)春名(はるな)』。 春に名前で、春名」 「春名…」 彼女も自分の名前を呟く。 突然、体が吹き飛ばされそうなほどの強い風が吹く。 その時散った花びらが2人の間を通り抜け、ふあふあくるくる、舞いながら落ちていく。 「ねぇ」と彼女が呼んだ。 「これからよろしくね」 そう言って笑って差し出してきた手を「こちらこそ」と言って握り返す。 その2人の足元に落ちて重なった花びらは、ハートの形をしているように見えた。
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