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桜の木を見上げていると、突然後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、何してるの?」
振り向くと立っていたのは1人の女子生徒。
制服が新しいから、おそらく同じ新入生だろう。
チラリと桜を見てまた女子生徒に視線を移して答える。
「桜を見てた」
「桜?
そんなの向こうにもいっぱい咲いてるけど…」
「いや。なんか、ここの桜が懐かしいような気がして…」
ただ校舎をブラブラしていただけだったのに、ここに近づいた時、ここに桜があると思った。
あることなんか知らないのに、初めてこの場所に来たのに、初めて見るはずなのに、見たことないはずなのに、この桜を見た瞬間胸が打たれたような衝撃を受けた。懐かしい気持ちが込み上げた。ずっと前から知っている気がした。
同時にとても泣きたい気持ちになる。
変でおかしいと思うのに、それをなぜか不思議に思わない自分がいる。変な夢を夢と自覚しながらも何の抵抗もなく受け入れてる感じ。
「…ふーん」
他には何も言うことなく、その女子生徒は隣に並んだ。
彼女の横顔を見た途端、誰かと重なって見えた。
名前を呼びそうになって、でも結局は出てこず何を言おうとしたのかさえ分からなくなった。
「……うん。分かる気がする」
「え?」
彼女がポツリと呟く。
「私もここの桜、懐かしいような気がするから」
「─────……ねぇ」
「うん?」
彼女が桜から自分に視線を移し、体ごとこちらを向いた。
「…君の名前は?」
「私の名前?」
一瞬、きょとんとした表情を見せたが、すぐに笑った。
「『天海光桜』。
光る桜で、光桜だよ」
「光桜……」
教えてもらった名前を口先で繰り返す。
なぜか胸が熱くなって、キュウ…と縮んで苦しくなって、それから満たされるような相互する気持ちが相まる。
今度は彼女が聞き返してきた。
「君の名前は?」
「……俺は、『千裕春名』。
春に名前で、春名」
「春名…」
彼女も自分の名前を呟く。
突然、体が吹き飛ばされそうなほどの強い風が吹く。
その時散った花びらが2人の間を通り抜け、ふあふあくるくる、舞いながら落ちていく。
「ねぇ」と彼女が呼んだ。
「これからよろしくね」
そう言って笑って差し出してきた手を「こちらこそ」と言って握り返す。
その2人の足元に落ちて重なった花びらは、ハートの形をしているように見えた。
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