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夕方の東京駅。
勤め人が足早に帰路を急ぐなか、私は彼女とともに人も疎らな十二番線に立つ。
三月とはいえまだ肌寒く、コートは手放せない。
「ねぇ、本当に良かったのかしら」
不安そうな彼女を抱き寄せると、肩が震えているのに気がついた。
ーー無理もない。
駆け落ちなんて、純粋な彼女には荷が重すぎるんだ。
名家のお嬢様の彼女。
その奉公人に過ぎない自分。
違いすぎる身分を埋め合わせる程の何かを、平々凡々な自分は持っているはずもなく、彼女の両親は猛反対。
そんな彼女の両親を怖れた自分の両親もまた、結婚には反対した。
二人で生きるために残された道は、駆け落ちしかなかった。
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