追憶のさくら

2/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
夕方の東京駅。 勤め人が足早に帰路を急ぐなか、私は彼女とともに人も疎らな十二番線に立つ。 三月とはいえまだ肌寒く、コートは手放せない。 「ねぇ、本当に良かったのかしら」 不安そうな彼女を抱き寄せると、肩が震えているのに気がついた。 ーー無理もない。 駆け落ちなんて、純粋な彼女には荷が重すぎるんだ。 名家のお嬢様の彼女。 その奉公人に過ぎない自分。 違いすぎる身分を埋め合わせる程の何かを、平々凡々な自分は持っているはずもなく、彼女の両親は猛反対。 そんな彼女の両親を怖れた自分の両親もまた、結婚には反対した。 二人で生きるために残された道は、駆け落ちしかなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!