解決篇はゲームクリアを待って

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 軽快なテンポで陽気な敵の手にかけられ主人公が死んでいく。彼には悪いと思いながらも、これを四回ほど繰り返す。緑色をしたその主人公は、向こう側で元気に「ギャー」と叫ぶばかりだ。  四畳半には相変わらず歯切れの良いアップテンポな音楽が流れ続けている。 推察するに対象年齢は低いはずなのだが、思った以上にシビアな難易度で、二十歳の学生を手こずらせるに足る出来になっている。三十年前の小学生もきっとほぞを噛んだに違いない。 「どうだ、難しいだろ?」  上杉源五郎(うえすぎ げんごろう)が、さも愉快そうに劣勢の僕を眺めている。名前の割に簡単に塩を送るような真似はしてくれないらしい。そもそも僕は彼の敵ではない。ついでに言うと、苗字は武田でもない。僕には設楽樹(したら いつき)という甲斐の虎にも負けず劣らぬ立派な名前がある。  わが学び舎の誇る名探偵は、他の多くの先達と同様に解決篇の前にやけにもったい付ける。しかしながら、それが彼のフェア精神から来ているのかは疑問だ。彼を名探偵であると看破しているのは僕だけであるし、彼自身もその才覚に自覚がない。彼の興味はまったくもって別の次元に存在しているのだ。 「さ、コンティニューだ。どんどんいけ!」  嬉々とした上杉の命令口調に僕は従うほかない。まだまだ憧れのホームズには程遠いらしい。謎を解けない傷心のワトスン君は渋々ながらスタートボタンに指をかけた。
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