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「はぁ……」  しんと静まり返った室内に、重苦しいため息がひとつこぼれる。 「何とか……何とかしないといかん……」  アンティーク調の豪華な家具がしつらえられたその空間は、一目見て上流階級のそれであるということがわかった。  この部屋の所有者――重厚感のあるデスクに肘をつき、背中を丸めている、さきほどのため息の主――は、名を大森政志という。  政界でその名を知らぬ者は無いという、頭に超がつくほどの大物政治家だ。  その彼が、何をそんなに困り果てているのか。 「このままでは、私の命が……」  デスクの上に鎮座している一枚のカードを睨み付けて、大森は表情を険しくする。 『裏切りは許さない。もしも我らに逆らうなら、その命は無いものと思え』  物騒なメッセージのみが印字されたそのカードに、差出人の名前は見当たらない。  しかし、目にも鮮やかなブルーの台紙を見れば、おのずとカードの出所は知れた。  彼は――いや、『彼ら』はいつだって本気だ。大森は経験上、そのことをよく知っていた。 「先生……」  気遣わしそうな表情で大森を見守るのは、秘書の戸田あかねだ。  心配することはないという風にこくりと頷いて見せると、少しだけその表情が柔らかくなる。  それでも、彼女の瞳は物憂げに曇ったままだった。 「――かくなる上は……」  大森は、もはや藁にもすがる思いで自身のプライベート用携帯電話を手に取る。  通話画面でキーパッドを操作すると、間もなく受話口からは無機質な呼び出し音が聞こえてきた。 「……ふぁい、こちらジェリー探偵事務所~」  例え電話に出た相手がいかにも胡散臭くても、やる気がなさそうでも、何も手を打たないよりはマシに違いない。  警察を頼ることができない今、残された手段はこれしかないのだ。 「依頼をしたい。ごくごく内密に。……金なら払う。いくらでもだ」  大森は、死への恐怖を押し殺した声で端的に用件を伝える。  『その日』まであと1か月を切った、とある冬の昼下がりのことだった――。
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