第1章

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 額から顎まですっぽりと隠れる白いマスクの男が、耳元で囁いた。マスクの中でくぐもった声が、アカリの耳の奥を震わせる。それだけで立っていられなくなりそうだった。  「望みがあるなら言って。大抵のことはしてあげられるから」  「望み‥‥ですか」  「あるでしょ。叩いて欲しいとか、縛って欲しいとか。もっとハードでも構わないけど」  想像を超えた男の言葉に、アカリは白いマスクを仰ぎ見た。  「私、初めてなんです‥‥」  「いいよ。そういう設定ね」  男の手が、アカリが纏ったローブの襟元に伸びる。  「違うんです。本当に。本当に、男の人とするの、初めてなんです」  男の手が止まる。仮面の奥で舌打ちしているのではないかと、アカリは思った。  「気持ち悪いですよね。やっぱり面倒臭いですよね。でも、誰かに見て欲しくて‥‥」  「見て欲しいって言われてもなあ。こういう店では、それだけじゃ済まないよ」  「わかってます。だから‥‥してください」
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