第1章

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マジックミラーの向こうで、重なり合った裸の体がゆっくりと回転した。  真っ赤なドミノマスクの女が、悪役レスラーのマスクを被った男の腹の上で腰をグラインドさせる。男が腰を突き上げると女の体が跳ね上がり、大きな乳房が上下に揺れた。  二つの歯車が噛み合うように二人のタイミングが合ってくると、女の喘ぎ声がねっとりと甘さを帯びてくる。何かを求めるように宙に伸びた女の手に、男は指を絡めた。そしてしっかりと繋ぎ合ったまま、二人は絶頂に口元を歪めた。彼らの最後の呻き声が、鏡の向こうの部屋から漏れてくる。皮膚に浮かぶ汗が頭上からのスポットライトに照らされて、全身ラメを散りばめたように光を拡散した。  里見アカリは、二人から目が離せなかった。  互いが求めるものを与えあい、自分には分かるはずもない何かを共有した二人。全裸にマスクという奇妙な姿にも関わらず、我を忘れて行為に耽る男女が、アカリには羨ましかった。  気がつけば両足の指先に自然と力が入り、体の奥がジュクジュクと感度を上げている。隣にいた男の手がアカリの腰を抱いていた。彼もまた、男の本能を呼び覚ましたようだった。  「さくらさんが良ければ、ここでする?」
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