犬心あれば猫心あり

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今日はこれから定例報告があるというのにあの軽やかな足取りはさすがと言うべきか。これから何時間かかるかわからない報告のために、中には明らかに具合が悪いですと言ったような表情をしている弁護士だっているのに、彼の空気はいつも華やかで軽やかだ。 ここは国内外問わず法律関係の仕事を請け負う『BLACK DOG lawyer's office』法律事務所だ。 ここのトップがさっき私の目の前を通り過ぎた1人の若い弁護士で、ここ数年確実に顧客と実績を伸ばし、最近ではマスコミにはほとんど出ない事で有名なはずなのに、取材のオファーが収まらない。 そこは彼の右腕として手腕を発揮するマイキー・カーネル率いる秘書軍団がこれまたうまく立ち回っているおかげで、マスコミを敵に回すこともなくいなしているようだったが、それでも機会を伺うようなプレゼントと贈り物攻撃は、私達受付の手を煩わす頭の痛いタネの1つになっている。 「あ、また猫缶……」 受付の女の子の1人が贈り物の中に、今はだいぶ落ち着いたが一時それはもう頭痛の最大のタネであったものを見つけ、何となくため息を1つ。 「マスメディアの力、恐るべしですよね」 「本当ね」 もう1人の外国人受付嬢と揃って苦笑しつつ、出社してきた弁護士達への挨拶が終わった後の仕事である贈り物の仕分け作業に移る。 『この前盗聴器が入っていたから、そこもチェックしてね』 『そうなんですか!?』 『鉢植えとかも怖いのよ。ハツネ先生が見つけてくれたからいいけど、本当にここは安全な国、日本なのかしらね』 確かに扱っている内容が国内外問わずだけではなく、結構重要案件も含んでいるから、当然情報自体がお金になる可能性があるものもたくさんある。となれば、そういう手を使っておこぼれに与かろうと思う不逞の輩がいてもおかしくはないが、ちょっとしたアメリカのドラマのような展開に、純正日本人の私は驚くばかりだ。
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