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 翔太は毛むくじゃらの犬を呆然と見つめました。  犬がしゃべってる! しかも変な言葉!  学校では、知らない人変な人おかしいと思った人には近寄らないように言われています。    翔太はなるべく見ないようにして歩き出そうとすると、 「ヒトが道に迷うとんのに、知らんぷりするとは、今時のチビは何考えとんのやろか」  間にガウガウ吠えながら、そう言ってきます。  翔太はチビという言葉に思わずむっとしました。  クラスで前から3番目の翔太は、その小ささから、いつも損をしていました。  早く大きくなりたい。  それは翔太の悲願でした。  お母さんもお父さんも小さいから、大きくならないといつも言われていたのです。 「……ちび言うな」  毛むくじゃらの犬に向かって怒りました。 「おうおう、喧嘩なら受けて立つぜ。わてはそれで出てきたんやからな」  毛むくじゃらの犬は胸を張って睨んできます。  翔太は急に不安になってきました。  しゃべる犬との喧嘩だけでなく、家を出て一人ぼっちという事実が一層不安にさせました。  出てきた、という言葉に敏感に反応するのも、翔太の気が弱い証拠なのかもしれません。  しょんぼりしている翔太を見て、毛むくじゃらの犬は吠えるのをやめました。 「なんや、にいちゃんも家出したんか」  翔太はハッとしました。家出。この犬も僕と同じ家出なのか? 「……家出? 犬さんも家出?」  毛むくじゃらの犬は慌てて、 「いや、わては家出ちゃうで。大人の男になろ思て、旅に出てるだけや」 と、胸を張り始めました。  その様子がなんだかとてもおかしくて、翔太はだんだん犬が気に入ってきました。  家出は一人より二人。  誰か道連れがいると元気が出て、楽しいものです。
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