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秀雄はその場で息を激しく切らしている。
口からは止めどなく吐かれる血は、体の中の血管を切られたせいだろう。
その激しい痛みに耐えながら、目の前に立つ女性に視線を向けていた。
「誰・・・。どうして・・・」
秀雄の口からは途切れ途切れの言葉が出る。
目の前に立つ女は、持っている出刃包丁で秀雄の胸を突き刺す。
「酷い男だね・・・。自分が傷つけた女の事を忘れて、街ですれ違って・・・。何も挨拶もしなきゃ、今になっても思い出せないなんて・・・。最低だよ」
女は胸から出刃包丁を引き抜くと、秀雄の体から鮮血が噴水のように噴出した。
真っ赤に染まる衣服を、女は両手で引き千切って、その下に隠れていた傷を秀雄に見せた。
「20年前、あんたに切られたこの傷のせいで、アタシは生死を彷徨い、果てには結婚すら出来ない人生を送る事になったんだ!死んで侘びな!」
その傷を見て思い出した。
秀雄が桜の木の下で大好きだった女の子と将来を誓おうとした結果、怪我させてしまった事。
でも・・・。
「死んでいなかったんだね・・・。雛ちゃん・・・。よかった・・・」
秀雄は最後にその言葉を残して、二人将来を誓い合おうとした桜の木の下でこの世を去った。
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