第1章

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地上500メートルの所まで伸びきった、伸縮式の展望室から見る下界の光景は絶景である。 川に沿って桜だろうか? 薄桃色の花をその梢に満開に咲かせた木々が生い茂り、木々が生い茂る場所ら水が流れる川まで、色取り取りの花々が咲き誇っている。 目線を頭上に向ける。 春の暖かい陽光を燦々と降り注ぐ太陽と、星が見えるのではないかと思わせる程透き通った青空が広がっていた。 頭上から目線を少し下げ、遥か遠くに見える山々を見る。 山の頂きにまだ雪が残り、山の上にはまだ春が来ていない事を窺わせた。 展望室と遠くに見える山々の間を、白い鳥が編隊を組み、北の方角を目指し飛んで行くのが見える。 鶴だろうか? 白鳥だろうか? 北に飛びさる鳥を見ていた私の耳に、子供の声が響く。 「お父さん! 見て、見て。 あそこに人がいるよ。 僕もあそこに行ってみたい」 目を展望室内に戻し見渡す。 私と同じように、展望室から見える光景に目を奪われていた家族連れの中の子供が、展望室の下を指さし騒いでいた。 私は子供が指さしている所を見る。 家族連れだろうか? 体格の違う4~5人の人間が、色取り取りの花々の中を歩んでいた。 展望室内ではあの場所に行きたがっている子供を、その父親が諭している。 「あそこは外界だ、私達はあそこには行けないのだよ」 「何で? 何で? あそこに人がいるのに、何で僕達は行けないの?」 子供は、その理由を教えて貰える年齢に達していない。 その年齢に達するまで教える事は禁じられている、たとえ親子であっても。 理由を言い淀んでいる父親に、子供は執拗に尋ねていた。
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