1.殺し損ねてなんとやら

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それはある梅雨の時期の出来事でした。 コンクリートの高い塀に沿って私は歩いてた。 今日は雨がすごい日だった。 ザーザーぶりの雨は濡れてないとこを無くすように、土や草木を潤す様に、常に降り続けていた。 カッパを着ているのに、服までが濡れるほどにすごい雨の日でした。 不思議にも心がとても穏やかで、冷たい空気を鼻から吸い込むと気持ちよかった。 そのうち目の前に、背の高い男の人が現れて、その男は私の顔を見た瞬間、目を見開いて驚いて立ち止まった。 「こんにちは。私のこと誰かわかりますか?」 『昨夜、〇〇県△△市でストーカーによる殺人事件が起こりました。被害者の五月 小葉(サツキコノハ)さんは、以前から警察に「ストーカー被害に遭っている」と相談をしていましたが、警察側は受理するだけで動きはなかったそうです_______』 「そして、裁判の結果は懲役10年でした?」 古い昔のデッキをデジタル式のテレビで流す。ところとじょろ画像が悪くなっているが、復讐心を燃やすためには十分だ。 うるさい雨の音と巻き終えたデッキのザーザー音が重なり合って、過去の情景が映像として脳裏をかすめた。 怒り、憎しみ、悔しさ、殺意、私はそれを今日まで溜め込んでた。奴が出所する10年後の今日まで。 忘れないあの日のこと、忘れてはいけないあの時の誓い。 今日、私は、人を殺す。 そのために今日まで生きてきたのだから。 もう何度か分からない曲がり道を抜け、走り続けていた。息が切れて体が重くなってきた頃、持っていた鉄バットを捨てようかと考えたが、身を守れる物としてこれより頼れる物がなかったし、相手が草履で着物だったおかげで距離はだいぶ稼げていた。 話が通じる相手ではなかった。彼らは私の耳が理解出来ないほど通常使われない日本語を使い、刃物をこちらに向けてきた。そして、急な景色の変化は明らかに私の身に何かが起こったと告げていた。
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