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その日は突然訪れた。赤い光が今でもまぶたの裏で明滅している。たくさんのサイレンの音と痛む身体。地面の上の君の姿。僕は必死で手を握る。この手を話したら君がどこかへ行ってしまいそうで怖かった。
君がその瞳を閉じてから5年。僕の世界が闇に閉ざされたから5年経った。僕も今日は君のベッドのそばに立つ。
「ごめんね。」
医者はいつか目がさめると言っていた。だけどもう5年。5年だ。もう君の目が開くことはない。心のどこかでそう思っていた。僕の頬を風が撫でる。
「先生!305号室の患者さんが目を覚ましました!」
私は5年寝たきりだったらしい。当然歩けなくなっていて、看護婦さんが車椅子に乗せてくれる。
「彼氏さん屋上にいるらしいわ。驚かせてあげないとね。」
早く彼に会いたい。5年ぶりの再会だ。心地いい風が私の髪をなびかせる。髪を抑えた私の目に映ったのは、両手を広げて宙へ身を投げ出した彼だった。私は彼に飛びつく。彼は驚いたように目を見開いた。
見えるはずなかった。君が目を覚ますはずなかった。こんな最期に見えるようになるなんて。こんな最期に君が目を覚ますなんて…。
僕は、私は、君を、貴方を、抱きしめた。
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