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Jacques Chocolat
ジャック・ショコラは熱にうなされていた。とてもじゃないが立っていられない。そう思って、すぐ側にあったベンチに腰掛けた。
「……………」
唇から漏れるのは辺り一帯の酸素を使い果たしてしまいそうな荒い呼吸。それに首すじをなぞる汗。見ようによっては、まるで顔が溶けだしているかのよう。側から見て、まずい状態にあるというのは一目瞭然であった。
「……………」
つまらない意地を張る気など起きず、素直に助けを欲した。言葉は喉の奥でつかえているが、目で信号を送る。「……………」頼む。「………」お願いだ。「…」あの人はどうだ。
誰かに気付いて欲しくてこんなに飢えたのは初めてかもしれない。危機を感じた時に現れる本能なのだろうか。それとも、無意識に潰されていた自意識が起き上がったのだろうか。
身体は依然として気味の悪い熱を帯びており、頭の中は妙に冷静という状態が続く。「……………」
と、ここでジャック・ショコラの耳が音を捉えた。何かが溶ける音。感覚器官はあらかた麻痺していると思っていたが、働き続ける聴力に花束を送りたい。
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