籠絡編

15/54
487人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
「……どうした?」 まるで子供に尋ねるかのように優しい声が八戸からこぼれる。 ここに木場や久野が居れば腹を抱えて笑うであろう優しい声だ。 「あ、あそこ!」 顔を向けずにある一定を指し示す相澤の指を辿っていくと、廊下の端にキラリと光る何かを見つけた。 相澤の頭を優しく撫で落ち着かせながら、そのキラリと光る箇所へゆっくり歩いていく。 そこにあったものは―――――――― 「…………おい。大丈夫だ。良く見てみろ」 八戸に促され恐る恐る顔を上げると、そこにあったのはぬいぐるみであった。 「ぬ、ぬいぐるみ?なんで?だって目が光ったし……」 「んー、この目玉のせいじゃね?なんがビー球みたいなのがはめ込んであるし」 「…………」 八戸の言う通りぬいぐるみの目玉は硬い素材で出来ており、何処からかの光を反射して光ったように見えただけだったようだ。 という事はたかがぬいぐるみに驚いていた訳で、それに気づいた相澤を羞恥が襲う。 「べ、別に俺分かってたし!」 ゆっくりと八戸から距離を取ると、20m先に見える職員室へ一目散へ駆けて行った。 どうやらここまでくればあとは怖くないらしい。 「クックックッ……可愛いなぁ」 そんな後姿を眺めながら、八戸が幸せそうに呟いたのだった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!