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「はいはい、じゃあさっさと戻して帰ろうぜ」
「うん!」
笑顔で相澤が頷けば、さっと顔を背け口元に手を宛てる八戸。
「……お前」
「ん?」
「あんまり人前で笑うな」
そう言えば以前久野にも同じ様な事を言われたなと思い出し、どうして皆笑うなと言うのだろうかと頭を悩ませる。
数歩先を行く八戸の後を追う。
「なぁ、俺の笑顔ってそんなに気持ち悪いの?」
途端前から聞こえてくる溜息に自分の答えが正しくないのだと相澤は察する。
「そう言う訳じゃねぇから、あんまり気にすんな。ほら行くぞ」
「む~」
気にするなと言われて気にしないほど、相澤は子供ではなかった。
「……大丈夫だよ。お前は目が人よりでっかくて、多少人より肌艶の良い普通の男だから」
「む~む~」
まだ納得していないようで悩んでいるようだが、考えるのは相澤のもっとも苦手とする事だ。
じきに違う事に気を取られ忘れてしまう事だろう。
その相澤の頭の軽さが時々羨ましくなる八戸である。
「うわぁ!」
この角を曲がれば職員室という所で、相澤がいきなり抱きついてきた。
八戸にとっては学校の怪談なんかよりも、驚きは大きい。
思いの他強い力で抱きつかれ、前に進む事すら出来そうに無い。
何故抱きつかれたのだろうかと頭を捻る八戸だったが、自分の背中に感じる温もりに、こんな状況ながら微笑ましくなってしまう。
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